オランダ新規法人設立の実務と税務、失敗しないための5つのポイントを解説

本記事は、オランダ在住クリエイティブディレクターの堤 藤成さんと共同で弊社の藤後(本記事の筆者)が2026年1月13日に開催した「グローバルビジネス はじめの一歩ウェビナー 第2部」の内容を抜粋・再編集したものです。

「オランダに会社を作りたいのですが、何から始めればいいですか?」——オランダで会計事務所を起業してから法人設立の相談をいただく機会が多くございます。

オランダは欧州のほぼ中央に位置し、英語が広く通じるビジネス環境、駐在員への優遇税制、そして日本とオランダの間に400年以上続く通商の歴史を持ちます。欧州進出の足がかりとして、多くの日系企業やスタートアップに選ばれている理由がここにあります。

私自身、日本からリモートでオランダ法人を設立し、現在はアムステルフェーンを拠点に活動しています。本記事では、私自身の経験と、これまで多くの方からいただいた相談事例をもとに、オランダ法人設立の実務を「設立ステップ」「税務」「失敗事例」の3つの柱で解説します。「日本の常識が非常識」——これが海外ビジネスの大前提です。

目次

1. 日本からリモートで設立できる

まず多くの方が驚かれるのが、「オランダに渡航しなくても会社が設立できる」という事実です。必要な書類を揃えてオンラインで手続きを進めれば、1〜2ヶ月のリードタイムで法人登記が完了します。すでにオランダに在住している場合は、書類が揃えば2〜3週間程度に短縮されることもあります。

ただし、設立登記の完了はあくまで「スタートライン」に過ぎません。その後の事業開始準備こそが、実は最も躓きやすいポイントです。プロセス全体を3つのフェーズに分けて理解しておきましょう。

2. 法人設立の3つのフェーズ

フェーズ1:法人設立手続き

No. 手続き 内容・留意点
オフィス住所の確保 バーチャルオフィスで可。ただし最安値プランは登記用住所として不可のケースがあります。プロバイダーには必ず「法人設立登記のための住所」と明示して確認してください。昨今、当期要件が厳しくなってきています。なお、自宅住所を登記した場合、KVK(オランダ商工会議所)の公開データベースに住所が掲載される点にご注意を。
公証人による定款認証 必要な書類を準備したのち、オランダ語での定款作成・署名が必要です。リモート手続きの場合は公証人とオンライン面談が設定されます。マネーロンダリング防止の観点から、設立理由や事業内容について詳細を質問されることがあります。事前に回答を整理しておきましょう。
KVKへの法人登録 定款認証完了後、KVKに法人登録を行います。これが完了することで法人として正式に認定されます。

フェーズ2:事業開始準備(ここが本当の関門)

設立登記が完了すると「あとは事業を始めるだけ」と思いがちですが、このフェーズで躓いて事業開始が遅れるケースがあります。設立登記と並行して、遅滞なく手続きを進めることが重要です。

No. 手続き 内容・留意点
銀行口座の開設 事業用口座の開設。必要書類の準備と審査に一定の時間がかかります。
賃金税番号の取得 役員・従業員への給与支払いに必須なのが、賃金税番号(Wage Tax Number)です。これがなければ源泉徴収・納付ができません。設立登記後、速やかな手続き開始が必要です。
VAT番号の取得(最重要) このVAT番号がなければ、有効な請求書を発行することができません。取得まで1〜2ヶ月かかるのが一般的です。税務局から事業内容の照会が来ることもあり、対応が遅れるとさらに時間がかかります。設立登記完了と同時に最優先で手続きを開始してください。
VAT番号がない状態では、サービスや商品を提供しても正式に代金を請求できません。キャッシュフローに直結する問題ですので、フェーズ1と並行して着手することを強くおすすめします。

フェーズ3:継続的な会計・税務義務

事業を開始したら、以下の定期的な義務が発生します。特にVAT申告は期限が短く、タイムリーな対応が必須です。

頻度 義務内容
月次 記帳(日々の経理処理)/ペイロール(給与計算・賃金税の源泉徴収・納付)
四半期 VAT申告・納税(申告期限は四半期終了の翌月末。売上規模が大きい場合は月次申告へ)
年次 法人税申告/財務諸表のKVK提出/役員・従業員の個人所得税申告

3. オランダの主要税率を把握する

オランダは「税制が有利」というイメージを持たれることがありますが、税目によってその評価は大きく異なります。主要な税としては、法人税・個人所得税・VATの3つがあります。

税目 税率 備考
法人税 19%(〜€200,000)
25.8%(€200,000超)
日本の実効税率(約30%超)と比較して有利。法人設立の税務上の主なメリットはここにあります。
個人所得税 約36%~
49.50%(€78,426超)
日本より相当高い水準です。個人の所得税節税を目的にオランダへ移住することは合理的ではありません。
VAT(付加価値税) 21%(標準)
9%(軽減:食品・医薬品・書籍等)
日本の消費税に該当するものです。日本(10%)より高い標準税率です。事業の価格設定に影響しますので事前に確認を。
個人所得税節税を目的にオランダへ移住するのは合理的ではありません。法人設立の税務上の意義は、主に法人税率の低さにあります。個人の税負担軽減が主な動機であれば、オランダは最適な選択先とは言えません。
ただし、個人所得税について、日蘭社会保障協定を適用し、オランダで社会保険料を支払わない、という手続きをした場合、最大で5年間、個人所得税の税率が大幅に低くなります(1年延長が可能)。

4. 知らないと損する——30%ルーリングの戦略的活用

オランダ最大の税制優遇措置が「30%ルーリング」です。適切に活用すれば年間100万円以上の節税効果をもたらす強力な制度です。

平たく言うと、オランダ国外からの優秀な人材を税制優遇し、オランダへの人材誘致制度です。これは、こちらで日本以外の国からきた方々と話していたも、基本活用されています。つまり、オランダは、高度な技能を持つ国外からの駐在員や移住者を戦略的に誘致していると言えます。

制度内容:オランダ国外で雇用契約を締結した専門人材に対して、給与の30%を非課税とする制度です(上限あり)。

試算例(年収 €80,000 の場合):非課税額 €24,000 / 年間節税効果 約€9,000(約170万円相当)

適用の絶対条件:オランダに入国する前に雇用契約を締結していること。入国後の契約では遡及適用はできません。

注意事項:フリーランス(個人事業主)では適用不可。法人と雇用契約を締結することが必要です。

今後の変更:2027年以降、非課税割合は30% → 27%に縮小予定

私自身が日本からリモートでオランダ法人を先に設立した理由もここにあります。日本にいる間にオランダ法人との雇用契約を結び、その後オランダに移住することで、この制度の適用要件を満たすことができます。

5. よくある失敗事例と対策

これまで多くの相談を通じて見えてきた「よくある失敗」を4つご紹介します。いずれも事前に知っておけば防げるものばかりです。

失敗のパターン 対策
01 会計士選びに失敗する オランダでは会計士の質にばらつきがあります。ウェブサイトからの問い合わせより、信頼できる人脈からの紹介が安全です。
02 30%ルーリングを知らずに移住してしまう 入国後に制度の存在を知っても遡及適用はできません。移住検討の段階で確認し、入国前の雇用契約締結を計画に組み込むことが不可欠です。
03 VAT番号の取得を後回しにする 設立登記完了で安心してしまい手続きを後回しにするケースがあります。設立登記完了と同時に最優先で着手してください。
04 オランダの雇用法を軽視する 解雇には厳格な手続きが課されます。特にSick Leave制度(最大2年間の給与支払い義務)には要注意。採用は慎重に行い、雇用契約の内容は専門家に確認してください。

まとめ:「準備の質」が欧州進出の成否を分ける

オランダでの法人設立自体は、日本からリモートで1〜2ヶ月あれば完了します。しかし本当に重要なのは、設立後の事業開始準備と、事前の正確な情報収集です。

  • VAT番号の取得は設立登記完了と同時に最優先で着手する(取得まで1〜2ヶ月)
  • 30%ルーリングを活用するなら、入国前の雇用契約締結が絶対条件(フリーランスでは不可)
  • 会計士・法務アドバイザーは信頼できる紹介ルートで選ぶ
  • 雇用は慎重に。日本とは異なる雇用法・Sick Leave制度に注意する

「日本の常識が非常識」——これが海外ビジネスの本質です。欧州進出を検討されている方は、ぜひ質の高い情報を持つ専門家に相談しながら準備を進めていただければと思います。

オランダ進出・法人設立についてのご質問・ご相談はお気軽にどうぞ。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次