【図解】オランダの輸入VATとArticle 23|EU域内でドイツへ移して売るときのVAT申告を数字で解説

この記事では、日本の親会社が持つオランダの子会社を「オランダ子会社」と呼びます。
📅 最終更新:2026年10月31日(2026年10月時点のオランダ・ドイツの制度に基づく)
この記事の要点
- VATの申告は「お客さまから受け取ったVAT」と「仕入で支払ったVAT」の精算。差額を税務当局へ支払い、支払った方が多ければ戻ってくる。
- EUの外から輸入すると、売る前でもVATを支払う。これは仕入のVATで、日本の仕入先が請求しない分を、輸入のときに税務当局(税関)へ直接支払う。後で取り戻せる。
- オランダのArticle 23(Art.23)ライセンスがあれば、輸入のVATを税関で支払わず、輸入した期間のVAT申告に支払う額と戻ってくる額を同額書くので、お金が動かない。ない場合は、還付されるまでの間(数か月程度)立て替えることになる。
- 在庫をドイツへ移すと、売っていなくてもオランダ(税率0%)とドイツ(同額を両方の欄に記載)の両方で申告が必要。お金は動かないが、ドイツでのVAT登録が必要。
- ドイツの倉庫からドイツの消費者に売ると、ドイツのVAT(19%)を受け取り、ドイツの申告で支払う。この例で実際に支払うのはここだけ。
1まず基本:VATは「受け取ったVAT」と「支払ったVAT」の精算
オランダ子会社が物を売るときは、代金と一緒に、お客さまからVATを受け取ります。反対に、物を仕入れるときは、代金と一緒に、仕入先へVATを支払います。
そして、定期的に税務当局へVATの申告をします。申告では、受け取ったVATと支払ったVATを精算します。
- 受け取ったVATの方が多い → 差額を税務当局へ支払う
- 支払ったVATの方が多い → 差額が税務当局から戻ってくる
たとえば、オランダ子会社がオランダ国内で€100,000の物を仕入れて、€250,000で売った場合(VAT 21%)は、次のとおりです。
仕入のときに支払った€21,000は、申告の精算で取り戻しています。つまり、仕入で支払ったVATは、最終的に戻ってくるお金です。オランダ子会社の負担にはなりません。税務当局へ支払う€31,500も、もとはお客さまから受け取ったVATです。
VATの申告書には、大きく分けて2つの欄があります。
+の欄:税務当局へ支払うVATを書く欄(お客さまから受け取ったVATなど)
−の欄:戻ってくるVATを書く欄(仕入で支払ったVAT)
+の欄の合計から−の欄の合計を引いた額を、税務当局へ支払います(マイナスなら戻ってきます)。
2なぜ輸入では、売る前に税務当局へVATを支払うのか
ここで疑問に思う方が多いところです。第1章のとおり、税務当局へ支払うVATは、ふつうはお客さまから受け取ったVATがもとになっています。ところが輸入では、まだ何も売っていないのに、オランダ子会社が税務当局へVATを支払います。しかも、日本の仕入先からはVATを請求されていません。
このVATは、売上のVATではありません。仕入のVATです。図1で、オランダの仕入先へ支払っていたVATと同じものです。違うのは、支払先だけです。
オランダの仕入先から買えば、仕入先が代金と一緒にVATを請求してくるので、仕入先へ支払います。一方、日本の仕入先は、EUの外から物を送るので、EUのVATを請求しません。
それでも、仕入にVATがかかることは変わりません。VATを請求してくる相手がいないので、そのかわりにオランダ子会社が、輸入のときに、直接、税務当局へ支払うのです(窓口は税関です)。
支払先が違うだけで、仕入のVATであることは同じです。ですから、輸入のときに支払ったVATも、図1の€21,000と同じように、VAT申告の−の欄に書けば戻ってきます。
3輸入のVATの支払いを遅らせる「Art.23ライセンス」
輸入のVATは戻ってくるとはいえ、支払うのは輸入のとき、戻ってくるのは後のVAT申告のときです。その間、€21,000はいったん出ていったままになります。
これを避けられるのが、オランダの税務当局が出すArt.23ライセンスです。オランダに設立された会社で、定期的に輸入しているなどの条件を満たせば取得できます。このライセンスがあると、輸入のVATを輸入のときに支払わず、VAT申告のときまで支払いを遅らせることができます。VATが免除されるわけではありません。
Art.23ライセンスがある場合、輸入した期間のVAT申告に、2つのことを同時に書きます。1つは、遅らせていた輸入のVAT €21,000の支払いで、+の欄に書きます。もう1つは、その€21,000を仕入のVATとして取り戻すことで、−の欄に書きます。支払う額と戻ってくる額が同じなので、差し引きゼロです。結果として、お金は一度も動きません。
「輸入した期間のVAT申告」とは、いつの申告か
VATの申告は、通常、四半期ごと(3か月ごと)か毎月で行います。どちらになるかは、税務当局から通知されます。Art.23ライセンスがある場合、輸入のVATは輸入した日が含まれる期間の申告書に書きます。申告書の提出と支払いの期限は、その期間が終わった翌月の末日です。
| 申告の単位 | 輸入した日(例) | 輸入のVATを書く申告書 | 提出・支払いの期限 |
|---|---|---|---|
| 四半期ごと | 11月10日 | 10月〜12月分の申告書 | 翌年1月31日 |
| 毎月 | 11月10日 | 11月分の申告書 | 12月31日 |
Art.23ライセンスがないと、何か月立て替えるのか
Art.23ライセンスがない場合、税関で支払ったVATを取り戻すのも、同じく輸入した日が含まれる期間の申告書です。この例では、オランダ子会社にはオランダでの売上がないので、申告書は「戻ってくる」状態(還付)になります。
還付の場合、申告書を出した後、税務当局が還付を認める決定を出し、それからお金が振り込まれます。決定は原則として受け取ってから8週間以内、振込は決定の後通常1週間以内(最長6週間)とされています。たとえば、11月10日に輸入し、申告書を期限の日に出し、決定まで8週間・振込まで1週間かかったと仮定して計算すると、次のようになります。これは一つの計算例で、実際の期間は申告書を出す日や税務当局の処理によって変わります。
| 申告の単位 | 申告書の期限 | 戻ってくる時期(計算例) | 立て替える期間(計算例) |
|---|---|---|---|
| 毎月 | 12月31日 | 3月上旬ごろ | 約4か月 |
| 四半期ごと | 翌年1月31日 | 4月上旬ごろ | 約5か月 |
| Art.23ライセンスあり | − | − | 0か月 |
つまり、Art.23ライセンスがないと、輸入のVATを数か月にわたって立て替えることになります。輸入を毎月続ければ、この立て替えも毎月続きます。Art.23ライセンスがあれば、この立て替えがなくなります。
※ 審査に時間がかかり、決定が8週間を超えることもあります(その場合は税務当局から連絡があります)。振込も、決定から最長6週間かかることがあります。反対に、申告書を期限より早く出せば、早く戻ってくることもあります。また、同じ期間にオランダで受け取ったVATが多い会社では、還付ではなく、税務当局へ支払う額が減る形で取り戻せます。
4この記事で追う例
- オランダ子会社が、日本の親会社から製品を€100,000で仕入れ、オランダで輸入する
- 輸入した製品を、全部ドイツの倉庫へ移す(製品の持ち主はオランダ子会社のまま)
- ドイツの倉庫から、ドイツの消費者に全部売る(税抜€250,000)
- VATの税率は、オランダ21%、ドイツ19%(どちらも標準税率)。関税、運賃や倉庫代などの費用は省いています
5全体像:申告は3回、実際に税務当局へ支払うのは1回
6① 輸入したとき(オランダの申告)
第3章のとおりです。輸入した日が含まれる期間のオランダのVAT申告書に、次のように書きます。
7② ドイツへ移したとき:売っていないのに申告する理由
オランダ子会社は、製品をオランダからドイツの倉庫へ移しただけで、まだ誰にも売っていません。それでも、オランダとドイツの両方で申告が必要です。
理由は、EUのVATが、原則として物が最終的に使われる国でかかる仕組みになっているからです。製品がドイツへ移れば、VATをかける国はオランダからドイツに切り替わります。この切り替えを、両方の国の申告書に書きます。
ドイツ側は、①の輸入と同じ形です。ドイツで仕入れた扱いになるので、仕入のVATとして同じ額が戻ってきます。ただし、戻ってくるからといって書かなくてよいわけではありません。ドイツの申告書の+の欄に€19,000、−の欄にも€19,000を、両方とも書く必要があります。
ドイツへ移すとき、お金は動くのか
動きません。Art.23ライセンスがあってもなくても同じです。
EUの国どうしの間には税関がないので、輸入のときのように国境でVATを支払う場面がありません。ドイツのVATは、ドイツの申告書の+の欄と−の欄に同時に書くだけです。Art.23ライセンスは、EUの外から輸入するときだけの制度です。
ドイツでのVAT登録:国ごとに、VAT番号と申告が必要
移す前に登録を済ませておきます。オランダで提出する移動の報告(ICP)には、移した先としてオランダ子会社のドイツのVAT番号を書くためです。また、申告は売れたときではなく移したときに行い、製品がドイツへ運ばれたことがわかる輸送の書類を保管しておきます。
※ ドイツに在庫を置かず、オランダから直接ドイツの消費者へ送って売る場合は別の仕組みがあり、オランダでまとめて申告できる場合があります(OSSと呼ばれます)。この記事の例とは別の話です。
会計士の言葉に置き換えると
②の話は、会計士からは次の言葉で説明されることが多いです。
8③ ドイツで売ったとき:ここで初めて税務当局へ支払う
ドイツの倉庫からドイツの消費者に売るのは、ドイツ国内での販売です。図1と同じように、オランダ子会社はお客さまから、代金と一緒にドイツのVAT(19%)を受け取ります。そのVATをドイツの申告書の+の欄に書いて、税務当局へ支払います。オランダの申告書には何も書きません。
9まとめ:タイミングごとに、どの申告書に何を書くか
| タイミング | 申告書 | +の欄に書く | −の欄に書く | 税務当局へ支払う額 |
|---|---|---|---|---|
| ① 輸入したとき | オランダ | 輸入のVAT €21,000 | 輸入のVAT €21,000 | €0 |
| ② ドイツへ移したとき | オランダ | なし(「ドイツへ移した€100,000」を税率0%で書く) | なし | €0 |
| ドイツ | 受け入れた製品のVAT €19,000 | 受け入れた製品のVAT €19,000 | €0 | |
| ③ ドイツで売ったとき | ドイツ | お客さまから受け取ったVAT €47,500 | なし | €47,500 |
最終的に税務当局へ支払うのは、ドイツのお客さまから受け取ったVAT €47,500だけです。輸入やドイツへの移動で出てくるVATは、どれも同じ額が戻ってくるので、オランダ子会社の負担にはなりません。第1章の「受け取ったVATと支払ったVATの精算」という考え方は、輸入や国をまたぐ移動があっても変わりません。
Art.23ライセンスがない場合と比べると
Art.23ライセンスがない場合に変わるのは①だけです。輸入のときに税関で€21,000を支払い、輸入した期間のオランダのVAT申告の−の欄に書いて取り戻します。②と③は同じです。違いは、€21,000をいったん立て替えるかどうか、そしてその期間です(第3章)。
−:出ていくお金 +:戻ってくるお金
10よくある質問
Q. オランダで輸入すると、なぜ売る前にVATを支払うのですか?
A. 輸入のときに支払うVATは、売上のVATではなく仕入のVATだからです。オランダ国内の仕入先から買えば、仕入先が代金と一緒にVATを請求します。日本などEUの外の仕入先はEUのVATを請求しないため、そのかわりに輸入のときに、オランダの税務当局(窓口は税関)へ直接支払います。仕入のVATなので、VAT申告で取り戻せます。
Q. オランダのArticle 23(Art.23)ライセンスとは何ですか?
A. オランダの税務当局が出す許可で、輸入のVATを輸入のときに支払わず、VAT申告のときまで支払いを遅らせることができる制度です。輸入した日が含まれる期間の申告書に、支払う額と戻ってくる額を同じ額で書くため、差し引きゼロになり、お金は動きません。オランダに設立された会社で、定期的に輸入していることなどが条件です。
Q. Art.23ライセンスがないと、輸入のVATをどのくらい立て替えますか?
A. 税務当局の処理によって変わるため、一概には言えません。還付の決定は原則として申告書の受領から8週間以内、振込は決定後通常1週間以内(最長6週間)とされています。たとえば11月10日に輸入し、申告書を期限の日に出し、決定まで8週間・振込まで1週間かかったと仮定すると、毎月申告で約4か月、四半期申告で約5か月の立て替えになります。審査が長引けば、これより長くなることもあります。
Q. オランダからドイツへ在庫を移すとき、VATを支払いますか?
A. 支払いません。EUの国どうしの間には税関がないためです。オランダでは「ドイツへ移した」ことを税率0%で申告し、ドイツでは受け入れた製品のVAT(19%)を、申告書の支払う欄と戻ってくる欄の両方に同額書くので、お金は動きません。Art.23ライセンスの有無は関係ありません。
Q. ドイツの倉庫に在庫を置いて売る場合、ドイツのVAT番号は必要ですか?
A. 原則として必要です。在庫をドイツへ移すことと、ドイツにある製品をドイツで売ることは、どちらもドイツで申告が必要な取引だからです。ドイツには小規模な事業者向けの免税制度があり、EU全体の年間売上が10万ユーロ以下などの条件を満たせば使える場合があります。手続や例外は国ごとに違うため、倉庫を置く国ごとに確認が必要です。
Q. 「域内供給」「域内取得」「ICP」とは何ですか?
A. 会社が自分の製品をEU内の別の国へ移したときに、会計士が使う言葉です。出発した国(例:オランダ)での申告を域内供給、到着した国(例:ドイツ)での申告を域内取得と呼びます。ICPは、オランダでVAT申告とは別に提出する報告で、EU内の別の国の事業者へ売ったことや、自分の製品を別の国へ移したことを報告します。
オランダ・アムステルフェーンを拠点に、日系企業の会計・税務を日本語で支援しています。
【出典・参考URL】
・ Handboek Ondernemen 2026(オランダ税務当局 公式ハンドブック)
・ Vergunning artikel 23 aanvragen | オランダ税務当局
・ Aanvraag Vergunning artikel 23(申請様式)| オランダ税務当局
・ Eigen goederen naar een ander EU-land vervoeren | オランダ税務当局
・ Export from the Netherlands to other EU countries: Intra-Community supply | オランダ税務当局
・ Wanneer moeten mijn btw-aangifte en betaling binnen zijn? | オランダ税務当局
・ Kamervragen (Aanhangsel) 2018-2019, nr. 1282(還付の決定・支払期限に関する財務省の回答)| オランダ政府
・ Wet op de omzetbelasting 1968 第23条 | オランダ政府 法令データベース
・ Btw melden via het eenloketsysteem (OSS) | オランダ税務当局
・ Implementation of the definitive VAT regime for intra-EU trade | 欧州委員会
・ Umsatzsteuergesetz(ドイツ売上税法、§1a・§12・§15・§19ほか)| ドイツ連邦司法省
※ 本記事は、仕組みの理解を目的として単純化した例に基づくもので、法的・税務的アドバイスではありません。実際の取扱いは取引の内容によって異なります。個別の判断については専門家にご相談ください。
