オランダBV会社設立 完全ガイド【2026年最新版】

本記事では、KVK・business.gov.nl・Belastingdienst等の一次ソースに基づき、2026年時点の手順・必要書類・実務上の注意点をすべて解説します。
そもそもBVとは?日本の株式会社との違い
BV(Besloten Vennootschap)はオランダの非公開有限責任会社です。日本の株式会社(KK)に最も近い形態で、外国投資家がオランダに進出する際に最も多く採用されています。
| 比較項目 | 日本の株式会社(KK) | オランダ BV |
|---|---|---|
| 最低資本金 | 1円 | €0.01 |
| 法人格 | あり | あり |
| 株主の責任 | 出資額限度 | 出資額限度 |
| 取締役の国籍要件 | 日本人代表取締役が原則必要 | 不要。外国人のみでも可 |
| 設立に公証人が必要か | 必要 | 必要(オランダ民法) |
| 株式の公募 | 可 | 不可(非公開が前提) |
公開株式会社であるNV(Naamloze Vennootschap)との違いは、株式を公募できるかどうかです。日系企業の現地子会社・持株会社として設立する場合は、ほぼすべてのケースでBVが選択されます。
持株会社スキームとの親和性と、資本参加免税(Participation Exemption)の活用が大きな理由です。オランダBVを中間持株会社として置くことで、欧州グループ全体の税務最適化が可能になります。詳細は「持株会社スキーム」のセクションで解説します。
BV設立の全体フローと所要期間
| ステップ | 作業内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 社名の決定 | 1〜2週間 |
| 2 | 登記住所の確保 | 並行作業 |
| 3 | 日本語書類の準備・アポスティーユ取得 | 2〜4週間(日本側) |
| 4 | 公証人との契約・定款作成・公証 | 1〜3週間 |
| 5 | KVK登録(公証人が代行) | 1〜4営業日 |
| 6 | Belastingdienst登録・各番号受領 | KVK登録後2週間以内 |
| 合計:現地対応の場合 | 約3〜6週間 | |
| 合計:リモート設立(日本から) | 約12週間 | |
リモート設立では、日本側でのアポスティーユ取得・書類翻訳・委任状作成・オランダへの国際郵送が加わるため、現地対応より大幅に時間がかかります。日本語書類のアポスティーユ取得は最優先で着手することを強く推奨します。
また、日系企業子会社の場合、親会社役員のIDが必要になるケースもあり、時間かかる可能性があります。
ステップ1 — 社名の決定
社名には「BV」を末尾に付けることが必要です(例:「Yamada Japan BV」)。文字はローマ字表記であれば英語・オランダ語どちらでも構いません。事前にKVK Name Checkerで類似社名がないかを確認します。
ステップ2 — 登記住所の確保
BVの登記住所はオランダ国内であることが必要です。自宅住所でも可能ですが、賃貸の場合、オーナーの許可を得ることと、KVKのサイトに住所が掲載されることに留意が必要です。
近年、EU・オランダのAML(マネーロンダリング防止)規制強化を背景に、住所提供会社に対する要件が厳格化されています。提供会社によっては、会社設立登記目的の利用を受け付けていない場合があります。
バーチャルオフィスを利用する場合は、契約時に「BVの設立登記(KVK登録)目的であること」を事前に必ず明確に伝えてください。この目的を伝えることで対応可能なプランや費用が変わります。書面での確認を推奨します。
ステップ3 — 公証人への提出書類の準備
BV設立に際して公証人に提供する必要がある情報・書類は主には以下の6項目です。これらをもとに公証人が定款(Akte van Oprichting)を作成します。定款はオランダ語での作成が法律上の要件ですが、英語版を並行して作成することは可能です。
| 項目 | 内容 | 説明 |
|---|---|---|
| 1 | 会社名 | 設立するBVの正式名称(末尾に「BV」を付ける) |
| 2 | 登記住所 | オランダ国内の住所(ステップ2で確保したもの) |
| 3 | 事業内容 | BVが行う事業の目的・活動(定款の「目的条項」となる) |
| 4 | 代表権の範囲 | 取締役が単独で代表権を持つか、複数取締役が共同でのみ行使できるか等 |
| 5 | 資本金と1株当たりの額面金額 | 発行株式数と1株あたりの額面価格(最低€0.01から設定可能) |
| 6 | 取締役・株主の身分証明書 | 有効なパスポートのカラーコピー |
オランダの公証人は、EU・オランダのAML規制に基づき、設立依頼者に対して事業内容の詳細なヒアリングを行うことが義務付けられています。事業の目的・取引先・資金の出所・事業の実態などについて確認されます(KYC:Know Your Customer)。
▶ 事業計画の概要(どのような事業を、誰を相手に、どのような形で行うか)
▶ 資本金の出所
▶ 株主・取締役の属性(会社の場合は登記情報など)
曖昧な説明では認証が遅延することがあるため、事前に明確に整理しておくことが重要です。
株主が日本法人である場合(日本の親会社がオランダBVを所有するケースなど)、その日本法人の登記事項証明書(商業登記簿謄本)をオランダの公証人に提出する必要があります。この書類は日本語で作成されているため、オランダで受理してもらうには以下のプロセスが必要です。
- 1原本の取得:日本の法務局で登記事項証明書を取得する
- 2アポスティーユの付与:日本の外務省にてアポスティーユを取得する。アポスティーユとは、ハーグ条約締約国(オランダも加盟)間で公文書の真正性を証明する国際認証です。取得は日本国内でのみ手続きが可能なため、早期着手が必須です
- 3英訳または蘭訳:アポスティーユが付与された書類を、認定翻訳者(sworn translator)によって英語またはオランダ語に翻訳する
アポスティーユのない日本語書類を英訳しただけでは、オランダの公証人・公的機関に受理されません。
外務省へのアポスティーユ申請は、管轄の公証役場経由で行う方法と、外務省の窓口に直接持参する方法があります。一般的に公証役場での予約取得に時間がかかるケースが多いですが、東京・銀座の公証役場は予約不要で当日対応が可能なため、急ぎの場合は特におすすめです。
身分証明書(パスポート)について:取締役・株主個人のパスポートのカラーコピーは通常アポスティーユ不要ですが、依頼先の公証人に事前確認することを推奨します。
ステップ4 — 公証人(Notaris)の選定と定款公証
上記の書類・情報を揃えたうえで、公証人に定款作成・認証を依頼します。
| 選定ポイント | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 言語対応 | 英語対応・日本語対応の有無(日系企業の実績があるか) |
| 料金体系 | 固定料金パッケージの有無(複雑な株主構造の場合は追加費用が発生することが多い) |
| リモート対応 | オンライン・リモート対応の可否 |
委任状(Power of Attorney:POA)を使えば、日本から来蘭することなく手続きを完結できます。ただし委任状自体にもアポスティーユが必要になる場合があるため、依頼先の公証人に事前確認してください。
ステップ5 — KVK登録とUBOレジスター
2026年1月1日以降、KVK登録料は€85.15(一回限り・税務上損金算入可)です。通常は公証人がKVKへの登録手続きを代行します。
UBOとは、法人の株式・議決権・支配権の25%超を直接または間接に保有する個人のことを指します。EUのAMLD指令に基づく制度で、オランダではKVKのUBOレジスターへの登録が法律上の義務です。
日本の親会社がオランダBVの100%株主であっても、その先の最終的な個人株主(あるいは支配的な地位にある個人)までさかのぼって登録する必要があります。上場企業が株主の場合など、UBOが実質的に特定できないケースには別途対応が必要です。
UBOの変更が生じた場合は1週間以内に更新する義務があります。
ステップ6 — Belastingdienst登録と各種番号の取得
KVK登録が完了するとKVKが税務当局(Belastingdienst)に情報を自動共有します。その後、数週間以内に以下の番号が届きます。
| 番号・ID | 正式名称 | 主な用途 |
|---|---|---|
| KVK番号 | 商工会議所登録番号 | 請求書・契約書など全公式書類に記載必須 |
| RSIN | Rechtspersonen en Samenwerkingsverbanden Informatienummer | 法人の税務識別番号 |
| VAT番号 / VAT ID | BTW番号 | VAT課税対象となる場合に付与。請求書発行に必須 |
VAT番号は必ずしも自動的に届くわけではありません。Belastingdienstが事業内容や取引形態を審査し、事業の実態確認(追加書類の提出や面談)を求められることがあります。VAT番号の取得が想定より長引くケースも実際に発生しています。
オランダでは適法な請求書(factuur)にはVAT番号の記載が法律上必須です。VAT番号が未取得の状態では、顧客への請求書を正式に発行することができません。BtoB取引を前提とした事業では、VAT番号の取得が事実上の営業開始条件となります。
従業員を雇用する場合は別途、給与税(Loonheffingen)登録の手続きも必要です。
DGA最低給与と「いつBVを設立すべきか」問題
個人事業主(ZZP)からBVへの切り替えを検討する際に最もよく聞かれる質問が、「どのタイミングでBVにすれば良いのか」というものです。
BVの取締役を兼ねる主要株主(株式5%超保有)は、DGA(Directeur-Grootaandeelhouder)と呼ばれ、Belastingdienstの慣例給与制度(gebruikelijk loon)により、自分自身に対して市場水準の給与を支払うことが義務付けられています。
| 年度 | DGA最低給与(年間) |
|---|---|
| 2025年 | €56,000 |
| 2026年 | €58,000(KVK公式) |
公式の目線では、DGA最低給与(€58,000/年)を継続的に支払えるだけの利益をBVが生み出せるタイミングが、BV設立の合理的な目安とされています。それ以下の収益水準でBVを設立すると、法人税・会計コスト・Payrollコストなどのオーバーヘッドが個人事業主より大きくなり、必ずしも有利にならないケースがあります。
収益がまだ安定していない段階では、DGA最低給与を下回る給与設定も認められています。この場合、Belastingdienstに対して最低給与を下回ることの申請(verzoek lager gebruikelijk loon)を行い、個別承認を得ることができます。事業立ち上げ期に無理な給与設定で資金繰りを悪化させないためにも、この制度の活用を検討してください。
持株会社(Holding BV)スキームを検討すべきか
日系企業・個人起業家どちらにとっても重要なトピックとして、オペレーティングBV+ホールディングBVの二層構造があります。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 資本参加免税の活用 | Participation Exemptionにより、子会社からの配当・売却益が免税 |
| リスク分散 | 事業リスクをオペレーティングBVに封じ込め、資産はホールディングBVで保全 |
| 株式売却時の税務メリット | 将来のM&A・Exit時に税務上有利な構造を構築できる |
どちらの構造が適切かは事業の規模・性質・将来計画によって異なるため、設立前に専門家に相談することを強く推奨します。
設立後すぐにやるべきこと チェックリスト
- ☐KVK番号の確認・KVK抄本(Uittreksel)の取得
- ☐RSIN・VAT番号の受領確認(届かない場合はVAT申請書を記載・提出してBelastingdienstへ積極的に対応)
- ☐VAT番号取得後、請求書フォーマットの整備(KVK番号・VAT番号・会社名・住所の記載必須)
- ☐DGA給与の設定とPayroll登録(または最低給与引き下げ申請)
- ☐VAT申告頻度の確認(四半期または月次)
- ☐会計記帳のスタート(設立日から記帳義務が発生)
- ☐年次決算・KVK提出期限の把握
- ☐UBOレジスターの内容確認(変更が生じた場合は1週間以内に更新)
よくある質問(FAQ)
まとめ
オランダBVの設立は正しく準備すれば3〜6週間で完了できますが、日本からのリモート設立では最大12週間を見込む必要があります。
▶ アポスティーユは日本国内でのみ取得可能——リモート設立のスケジュールを左右する最大の要因
▶ VAT番号なしでは請求書を発行できない——営業開始前に先行して申請を進めること
▶ DGA最低給与€58,000(2026年)——これを払えるタイミングがBV設立の合理的な目安。スタートアップは引き下げ申請が可能
当事務所では、BV設立の準備段階から、設立後の記帳・税務申告・Payrollまでをワンストップでサポートしています。オランダ進出を検討されている日系企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。
