欧州M&A市場分析:オランダ市場が日系企業に提供する買収機会(2025年Q3レポート)

2025年第3四半期のオランダM&A市場は、少数の大型案件と多数の中小型案件という二極化構造を呈しており、競争が緩やかな中小型案件市場は日系企業に欧州参入の好機を提供しています。本稿では、オランダを中心とした欧州市場の買収機会、セクター別の案件パイプライン、そして実際の日系企業による成功事例を分析し、効果的な案件ソーシング戦略を解説します。

本記事は、Datasite社とMergermarket社が共同発表した「Deal Drivers: EMEA Q3 2025 – A spotlight on mergers and acquisitions trends in 2025」をもとに作成しています。


目次

1. オランダM&A市場の概況:大型案件と中小型案件の二極化

2025年第3四半期、オランダのM&A市場は欧州全体のトレンドを象徴する動きを見せました。取引件数は220件と前年同期比24.1%減少し、過去3年間で最も低い水準となりました。しかし、取引総額は€33.3bn(約5兆円)に達し、前年同期比291.8%という驚異的な増加を記録しました。

指標 2025年Q3 前年同期比
取引件数 220件 -24.1%
取引総額 €33.3bn +291.8%

この数字が示すのは、少数の大型案件が市場を牽引する一方で、多数の中小型案件が継続的に取引されているという明確な二極化構造です。

2025年Q3のトップ10案件だけで約€32bnを占めており、これは総額の96%に相当します。特に上位2案件(Keurig Dr PepperによるJDE Peet’s買収€19.7bn、GenmabによるMerus買収€7.2bn)だけで全体の81%を占めています。

しかし注目すべきは、取引件数220件のうち、大型案件を除く200件以上が中小型案件であるという事実です。これらがオランダ国内の活発なM&A活動を支えています。

取引件数ベースでは、オランダ国内の買い手が101件(45.9%)を占めています。一方、取引総額ベースでは米国企業が€20.8bn(62.6%)で首位、デンマーク企業が€7.2bn(21.5%)で続きます。この乖離は、国内企業が主に中小型案件を手掛けている証左です。

買い手国籍 取引件数 構成比
オランダ 101 45.9%
米国 18 8.2%
ベルギー 17 7.7%
スウェーデン 16 7.3%
ドイツ 14 6.4%

オランダ企業が全体の約46%の取引に関与していることは、国内に豊富な中小型案件が存在することを明確に示しています。


2. オランダ経済のファンダメンタルズと市場魅力

オランダ経済は2024年後半の景気後退懸念を克服し、2025年第3四半期には安定成長を取り戻しました。CPB Netherlands Bureau for Economic Policy Analysisは、2025年の経済成長率を約1.7%と予測しており、これは欧州基準で良好な数字です。インフレ率は9月時点で3.3%と、ピーク時から大幅に低下しています。

オランダ企業を買収する戦略的価値は、単に一企業を取得することにとどまりません。ロッテルダム港(欧州最大)、スキポール空港を擁し、欧州全域へのアクセスが容易です。法制度が整備され、英語の浸透度が高く、多国籍企業の欧州本社が多数立地しています。R&D投資が活発で、技術系エコシステムが充実しています。

中小型のオランダ企業であっても、多くは既に欧州各国に顧客基盤を持っており、買収により即座に欧州市場へのアクセスを獲得できます。


3. セクター別案件パイプラインと買収機会

Mergermarketが追跡する「売却予定企業」データ(2025年4月-9月)によれば、オランダには以下のセクター別案件パイプラインが存在します。

セクター 案件数 構成比
TMT 53 24.1%
ビジネスサービス 41 18.6%
産業・化学 40 18.2%
消費財 22 10.0%
医薬・医療・バイオテック 20 9.1%
その他 44 20.0%

TMT(53件)

AI駆動のコンピューティング需要により、欧州のデジタルインフラが急拡大しています。データセンターの開発パイプラインは2.6GWに達し、2030年までに年間投資額が€100bnに近づくと予測されています。ソフトウェア、サイバーセキュリティ、クラウドサービスなど、日系企業のDX推進に資する技術を持つ企業が多数含まれます。

ビジネスサービス(41件)

人材サービス、施設管理、ロジスティクス、専門サービスなど、比較的安定したキャッシュフローを生み出すビジネスモデルが中心です。製造業を営む日系企業が、欧州での事業基盤を構築する手段として有効です。

産業・化学(40件)

精密機械、計測機器、特殊化学品など、日本の製造業の強みを活かせる分野です。オランダには、ニッチ市場でグローバルシェアを持つ中堅企業が数多く存在します。


4. 注目ディールと日系企業の実績

Keurig Dr PepperによるJDE Peet’s買収(€19.7bn)

2025年8月25日発表。米国のKeurig Dr Pepper Inc.が、アムステルダム本社のコーヒー・紅茶企業JDE Peet’s NVを全額買収しました。買収後、同社はJDE Peet’sを2つの上場企業(グローバルコーヒー企業とリフレッシュメント飲料企業)に分割する計画です。これは過去2年間で欧州最大規模の消費財M&A案件の一つです。

GenmabによるMerus買収(€7.2bn)

2025年9月29日発表。デンマークのGenmab ASが、オランダのバイオテク企業Merus NVを全額現金で買収しました。Merusの後期臨床段階にあるがん治療用バイスペシフィック抗体が買収の中核であり、Genmabは完全所有パイプラインモデルへとシフトする戦略です。

日本郵船グループによる医薬品ロジスティクス買収(€1.25bn)

2025年7月17日発表。Nippon Yusen Co. Ltd.とYusen Logistics Co. Ltd.が、オランダのMovianto International BVを含む欧州医薬品ロジスティクス事業を買収しました。総額€1.25bnのこの取引により、日本郵船グループは欧州全域での医薬品サプライチェーンにおける地位を強化しました。

この案件は、日系企業がオランダを拠点とする企業を買収することで、欧州市場全体へのアクセスを獲得した好例です。Movianto International BVは、欧州全域で医薬品の温度管理輸送と保管サービスを提供しており、高付加価値ロジスティクスの中核資産となっています。

Compass GroupによるVermaat Groep買収(€1.5bn)

2025年7月22日発表。英国のCompass Group plcが、オランダのプレミアムケータリング企業Vermaat Groep BVを買収しました。Vermaatはオランダ全土で高品質なフードサービスを提供し、ドイツとフランスにも事業を拡大しています。

この案件は、中堅規模のオランダ企業が持つ高品質なサービスとブランド価値、そして周辺国への拡大の足がかりが、グローバル企業にとって魅力的な買収対象となることを示しています。


5. 中小型案件の戦略的価値と競争環境

大型案件(€1bn以上)では、米国の大手戦略的買い手やグローバルプライベートエクイティファンドとの競合が激しく、バリュエーションが高騰する傾向にあります。一方、中小型案件では:

  • 買い手候補が限定的(国内同業、近隣欧州国企業、地域PEファンドが中心)
  • グローバル大手の関心は低い(規模が投資基準に合わない)
  • 合理的なバリュエーション(競争が限定的で過度なプレミアムが付きにくい)
  • 丁寧な交渉が可能(オーナー企業は価格以外の要素も重視)

日系企業の優位性として、長期的視点での事業育成能力、技術・ノウハウの尊重、雇用維持への配慮、アジア市場へのゲートウェイ提供が挙げられます。これらの要素は、オーナー企業が従業員の雇用継続や事業の発展を重視する場合、日系企業を優先的な売却先として選択する理由となります。

中小型案件のバリュエーション水準は、大型案件に比べて相対的に低く抑えられる傾向にあります。典型的なバリュエーション倍率(EV/EBITDA)の目安は、大型案件(€1bn以上)で10-15倍以上、中型案件(€100m-1bn)で8-12倍、小型案件(€100m未満)で5-10倍程度です(業種により異なるためあくまで参考値とご理解ください)。

中小型案件は、大型案件に比べて統合プロセスの複雑性が低く、日系企業にとって管理しやすい規模感です。組織規模が管理可能(従業員数が数十人から数百人程度)、意思決定の迅速性、既存事業との統合のしやすさ、文化的融合の進めやすさなどが特徴です。初めて欧州でM&Aを実施する日系企業にとって、中小型案件は「学習の場」としても最適です。

数年前に、中型案件(€100m-1bn)にてヨーロッパ市場に参入した企業も、小型案件(€100m未満)によるロールアップ戦略をとれる、という戦略的価値を提供しています。


6. 欧州全体での案件ソーシング機会

オランダ以外の欧州市場も、日系企業にとって魅力的な買収機会を提供しています。

英国・アイルランド

2025年Q3に785件の取引が発表され、取引総額は€77.2bnに達しました。米国投資家が€38.9bnを展開し、市場の中核を占めています。英国の「バリューギャップ」(企業価値の割安感)が、国際的な買い手を惹きつけ続けています。

DACH(ドイツ・オーストリア・スイス)

ドイツでは、経済の低迷とSME(中小企業)の事業承継ギャップが、産業セクターでの統合を促進しています。2025年Q3には551件の取引が発表され、取引総額は€59bnに達しました。特に、精密部品、特殊化学品、産業サービスの分野で、ミッテルシュタント(中堅企業)の買収機会が豊富です。

北欧

スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドでは、2025年Q3に667件の取引が発表され、取引総額は€15.7bnとなりました。デジタル技術、クリーンテック、ライフサイエンス分野で革新的な企業が数多く存在します。


7. 当社の案件ソーシング能力

当社は、オランダ国内において特に充実した案件ソーシング能力を有しています。オランダ市場の売却予定企業が存在し、その大多数が中小型案件です。弊社の案件ソーシングの中でも、売上€5M~30Mがボリュームゾーンとの印象をもっています。

現地ネットワーク(オランダ・イギリス・ドイツ・中東欧・その他ヨーロッパ圏の小規模Investment banker、会計事務所、法律事務所との強固な関係)、セクター専門性(TMT、産業・化学、食品、水産、ビジネスサービス等の主要セクターでの案件発掘実績)、オーナー企業へのアクセス(大手アドバイザーが関与しない案件へのアプローチが可能)、バイリンガル対応(英語・日本語でのコミュニケーション能力)が当社の強みです。

当社は特に、€10m-€50m規模の中小型案件において豊富な経験を有しています。この規模帯は、グローバル投資銀行の関心が相対的に低く、専門的なブティックアドバイザーの価値が最も発揮される領域です。

オランダを中核としつつ、当社の案件ソーシングネットワークは欧州全域に及びます。英国(ロンドンおよび地方都市のミッドマーケット案件)、ドイツ(ミッテルシュタント企業、特に製造業・産業技術分野)、フランス(ファミリービジネス、消費財、ビジネスサービス)、北欧(テクノロジー、クリーンテック、ライフサイエンス)、ベネルクス(ベルギー、ルクセンブルクの中堅企業)での案件発掘が可能です。

当社は、日系企業特有のニーズを深く理解しています。長期的視点の重視、文化的適合性、統合支援、段階的アプローチなど、日本企業の組織文化との親和性を考慮したサポートを提供いたします。


8. まとめ

2025年第3四半期のデータが示すように、オランダM&A市場は明確な二極化構造を呈しています。少数の大型案件が市場を牽引する一方で、200件以上の中小型案件が継続的に取引されています。

日系企業にとっての示唆は以下の通りです。

オランダ国内の買い手が101件(46%)の取引に関与しており、中小型案件市場が活発であることを示しています。大型案件に比べて競争が緩やかで、長期的視点や雇用維持への配慮が評価されやすい環境です。オランダ企業の買収は、EU市場全体へのアクセスを提供します。日本郵船グループの€1.25bn医薬品ロジスティクス買収は、オランダ拠点企業を通じた欧州市場参入の有効性を実証しています。

オランダ市場、そして欧州全体における中小型案件の買収機会を最大化するためには、現地に精通した専門アドバイザーとの協働が不可欠です。当社は、オランダを中核としつつ欧州各国での案件ソーシング能力を活かし、日系企業の欧州M&A戦略を包括的に支援いたします。


お問い合わせ

欧州、特にオランダ市場での買収案件にご関心をお持ちの企業様は、info@tgopartners.com までご連絡ください。貴社の戦略に適した案件の発掘から、交渉、デューデリジェンス、クロージング、そしてPMI支援まで、一貫したサポートを提供いたします。

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